オランダで歯科医師免許を取得するための4ステップ【前編】・海外で医療者への道!Vol.7

海外で歯科医師として働く


オランダに渡ってすぐ、私は医師免許取得のためにメディカルプログラムへの入学を試みました。
今思えば無謀な試みであったかもしれませんが、それがあっての今だ、とも言えます。

この時の試みで、再三の挫折を味わいました。
それでも「海外で医療者として働く」という灯火は消えませんでした。
まだ手元に燃やせる薪があったからです。

こうして私は、目標をオランダの歯科医師免許取得一本に絞りました。ちょっとした方向転換でした。

今回はオランダで歯科医師免許を取得するためのステップについて記します。

目次
1. 医療者登録(BIG-register)とは?
2. Buitenlands diploma(外国の資格取得者)
3. 主な4つのステップ
 ①受験資格の取得
  ・ETCSとは?( 前編ではここまで)
 ②オランダ語の知識および能力検定試験(AKV-toets)
 ③医療者としての専門能力試験(BI-toets)
 ④医療者としての登録申請(BIG-register)

1. 医療者登録(BIG-register)とは?


BIG-registerとは、Beroepen in de Individuele Gezondheidszorg-registerの略称で、直訳すると「個人の健康管理に関する職業ー登録」となります。公的な医療者登録を管理する機関、システムのことで、医療者として登録されると、法的に保護された標榜を使用することができます。

オランダでは薬剤師、医師、理学療法士、健康心理学者、医師助手、セラピスト、歯科医師、看護師、助産師の9業種が対象となります。

また、医師、歯科医師、看護師、助産師は、独立して、職業に関連した処置を実行することができます。

ちなみに本登録は、オランダ人も外国人も5年ごとの更新が必要です。

そしてこのBIG-registerの中に、外国で資格を取得した人用のプロセスがあります。

2. Buitenlands diploma(外国の資格取得者)


外国(オランダ外)で取得したDiploma(免許、資格)で、オランダで医療従事者として働きたい人のためのプロセスです。ただし、オランダで取得されたDiplomaと同等の内容、レベルであると見なされた場合のみ登録可能です。

従って、このプロセスには異なる手順が存在し、それらはDiplomaを取得した国、本人の国籍、業種によります。同等と見なされるためにはいくつかの試験に合格する必要があります。

Buitenlands diploma内の3つのプロセス

1 Automatische erkenning(自動的認証)

これはEU加盟国およびスイスで取得されたDiplomaが対象です。該当する場合は自動的に承認されます。

2Beroepskwalificaties(専門資格の認定)

EU加盟国およびスイスで取得されたDiplomaですが、1で自動的に認証されないものが対象です。

3Verklaring van vakbekwaamheid(専門的能力の認定)

EU加盟国およびスイスではない国で取得されたDiplomaが対象になります。(私の場合はこれに該当します。)


当たり前ですが、オランダ語の習得は必須です。

業種によって僅かながらの要求レベルの差はありますが、基本的にオランダ語が十分に扱えないとアプライできませんし、試験に受かりません。医師、歯科医師の場合B2/C1レベルです。NT2 Programma2 (アカデミックコース)に合格すれば必要レベルを満たします。

NT2 とは第2外国語としてのオランダ語検定試験のことで、オランダでの大学入学や就職の際に、語学能力の証明に利用される公的な試験です。私は受験して合格しましたが、BIG-registerにおいて、当試験の受験と合格は必須条件ではありません。あくまで当試験に合格するだけの能力が必要ですよ、ということです。

3. 主な4つのステップ


BIG-registerに登録されるには主に以下のステップをクリアする必要があります。

①受験資格の取得

②オランダ語の知識および能力検定試験(AKV-toets、前述のNT2とは別物)

③医療者としての専門能力試験(BI-toets、いわゆる国家試験です)

④医療者としての登録申請(BIG-register)

① 受験資格の取得


まずは、登録に必要な試験を受ける受験資格を取得するために申請をしなくてはなりません。

この申請の準備もなかなか骨の折れる作業ですが、ひとつづつ着実に書類を揃えましょう。必要な書類は主に下記の書類です。(申請時に自己責任で再度確認してください)

・申請書(BIG-registerのサイトからダウンロードできます)
・CV(履歴書)
・パスポートのコピー
・大学の卒業証明(英文で大学から発行してもらう)
・大学の成績表(英文・ECTSの併記が必要)
・大学のシラバス(受講した科目と内容の概要、時間数が記載されたもの。英文)
・歯科医師免許(英文で厚生労働省医政局医事課から発行してもらう書類・自分が申請する職業の資格証明書)
・勤務証明書(日本で勤務した病院に英文で発行してもらう勤務期間などの証明書)
・認定医の英文証明書(認定医や専門医の資格も合わせてアプライしたい場合のみ)

パスポートのコピー以降の書類は原本であるか、gewaarmerkte kopieでなくてはなりません。
原本を提出すると、何かあったときに手元に原本がなくなるので、あまりお勧めできません。
gewaarmerkte kopieを取得して提出するのが良いでしょう。

gewaarmerkte kopieとは、日本でいう公証人による認証やアポスティーユのことです。
日本でそれらを取得してきても良いですし、
オランダ国内のNotaris(行政書士のいる事務所)にて認証を取ることもできます。
私は両方のお世話になりました。

上記書類の準備の中で、特に大変だったのが、

大学の成績表におけるECTSの併記、と

大学のシラバスの英訳版の作成

でした。

なぜ大変かというと、ECTSと英訳版のシラバスはデフォルトで存在しないため、自作する必要があったからです。

卒業証明書や成績証明書の英語版自体はデフォルトで存在していることが多いと思います。
私の出身大学もそうでした。
ただしECTSや英訳版のシラバスとなると話は別です。(自身の出身校に各自で確認しましょう。)

まず、ECTSってなに???

というところから始まります。

ECTSはEuropean Credit Transfer System(欧州単位互換制度)のことで、
高等教育機関で効力を有する、ヨーロッパ共通の教育単位制度です。

例えば、日本の大学の1単位(学修量38〜48時間)=1.5ECTS(37.5〜45時間)に換算されるといった感じです。

海外に姉妹校があるとか、海外との交流が盛んな大学でない限り、この単位互換制度に精通している大学は日本国内では多くないとおもいます。つまり、大学に「成績表と共にECTSを併記してください!」といっても、

「はい、承知しました。」といって、簡単にECTSを併記してもらえるとは限らないということです。

日本国内ではほとんどの大学及び大学生に、そもそも必要ではないシステムなので、大学側もよくわからないという可能性があります。

で、どうしたかというと、

母校の日本大学歯学部の教務課にコンタクトをとり、自分の現状と、ECTSが必要な旨を説明し、
わざわざ全ての教科におけるECTSを算出して頂きました。
算出の方法はオランダ当局に問い合わせました。
教務科の方に本当にお世話になりました。大大大感謝です。

次に大変だったのが、シラバスの英訳版を作成することです。

たいていの大学には第何学年で何の科目をどのくらいの時間学修するか、を示したシラバスや学修要項が存在すると思います。

当たり前ですが、普通は全て日本語で書かれています。

しかし必要なのは英語版です。

シラバスや学修要項の英語版も、デフォルトで用意している大学はそう多くないのではないでしょうか。

なければ作るしかありません。

またまた、母校の教務課にお願いして、学修要項のコピーを取得しました。
本当に教務課にはお世話になりっぱなしでした。

歯学部6年分の学習要項は、なかなかの量です。それら全てを、自力で英訳する時間と能力は持ち合わせていませんでした。プロにお願いするしかないと判断しました。

かなりの量なので、翻訳料もかなりの額になります。そこで、必要不可欠な部分以外は可能な限り削りました。それでも翻訳代だけで数十万です。背に腹は変えられません。

さらにその学習要項(シラバス)の英訳版の内容がデタラメではないという証明が必要です。これも翻訳会社にお願いしてアポスティーユ認証を取得してただきました。

私は株式会社岩井特許翻訳事務所さんに、翻訳をお願いしました。本当に親身に対応してくださいました。

特に大変だったものは以上の2つでしたが、
在籍証明書なども英語版のデフォルトが用意されていないことも多々あります。
まずは自分で英語版の雛形を作成して、そこに対応する勤務期間と公印を追加して作成していただくようにしました。


2019年の暮れから申請の下調べ、書類の準備を開始。

足りない書類があったり、必要な書類に公証が取得されていないなど、機関とのやり取りを何度か経て、

2020年7月、ようやくBIGから「貴君が歯学の教育を受けたという確かな確認が取れた。日本の大学にも問い合わせた。ついては、貴君にオランダの歯科医師免許を取得するための試験を受ける権利を与える。」という手紙を受け取りました。

オランダに渡って4度目の夏のことでした。

次回、後編では
・オランダ語の知識および能力検定試験(AKV-toets)
・医療者としての専門能力試験(BI-toets)
・医療者としての登録申請(BIG-register)

について記します。

海外で医療者として働くための道!シリーズの記事はこちらから↓
http://www.chiptankoyama.com/category/海外で歯科医師として働く/

↑私がイラストを担当させていただいた書籍です。